-斉藤 恭介- こんなはずじゃなかった。 可奈にも親友にも見捨てられ、 地位も名誉も会社も全て失った。 手元に残ったのは、 ほんの少しの貯金と、 一台のデスクトップPCだけ。 少しだけ、 あの頃に戻ろう。 心が癒されるまで。 時が満ちるまで。 「AbusoluteOnline」 この世界では力こそが全て。 サイレントマジョリティ-声無き多数派-は、 一切の影響力を持たない。手にせよ、力を。 カチッ (クリック音) ["Zeno"がログインしました。] Kzp:あれっ、ぜのさん!? Kzp:もしかして復帰ですか? Zeno:屑・・・いや、かずp、 Zeno:相変わらずネトゲ三昧か? 奇遇な事にログインするとすぐ、 懐かしい名前の奴に出会った。 こいつは通称「屑ぴー」 「かずぴー」と呼ぶらしい。 「屑ぴー」と呼ぶと、 本気で機嫌を損ねるため、 注意が必要である。 Kzp:ぜのさん今なにか言いかけたよな(おこ Kzp:まあ、そうです。良い仕事見つからなくて。 Zeno:そうか、私も復帰を考えてる。 Kzp:え、本当に!? Kzp:リアルは大丈夫なんです? Zeno:ひと段落ついた所でね。 Zeno:ぼちぼち復帰させてもらうよ。 本当のことは少し話しづらい。 話せば少しは楽になるのだろうが、 何かが解決するわけではない。 話してしまうのは単なる応急処置であって、 相手に弱みを握らせるだけだ。 今は社長だった私を演じておけば良い。 Kzp:本当ですか!そりゃ忙しくなる。 Kzp:これ、返します。私がぜのさんから預かっていた装備です。 Kzp:ほかの装備もあの時の仲間にあげちゃったんでしたよね。 Zeno:ありがとう、そうだな。 Zeno:でも、作り直そうと思ってる Zeno:この刀さえあればしばらくは何とかなるさ。 Zeno:お前が無職で居てくれて助かったよ。 Kzp:作り直すって・・・本気ですか? Kzp:上位互換はたくさんでましたけれど、 Kzp:この強化を超える代物は・・・ Zeno:大丈夫さ、考えがある。 Kzp:まさか・・・?では、これをまず返します。 - 刀:天叢雲剣-真-(+57) 攻撃力27600 特殊能力:相手の防御力を"完全"に無視する。 - Zeno:やはりしっくりくるな Zeno:よく売らないで持っててくれたね。 Kzp:実は何度も売りそうになりましたよ・・・ Zeno:おい Kzp:へへへ。 Kzp:あ、面白い装備があるので、 Kzp:此方も渡しておきます。 - 鎧:布の服(+1028) 防御力:1560 特殊能力:素早さが1.5倍になる - 耳飾:囁きのピアス スキル:卑猥な囁き - Kzp:まず布の服、これ素早さ補正が最強じゃないですか Kzp:そして入手が容易。なぜならNPCが販売してるから。 Kzp:暇だったんで強化してやりました。 Kzp:作るのに三日三晩かかりましたけれどね。 Zeno:ほう、これは面白い。 Zeno:防御力がここまでになるとは・・・ Zeno:囁きのピアスってのは何だ? Kzp:それはえっちな単語を囁く耳飾です Kzp:自分にも相手にも使えますよ 囁き[あは〜ん(はあと] Zeno:くずぴー・・・。 Kzp:へへへ、お好きでしょう? Kzp:実用性もありますよ。相手を混乱させられる。 少し可奈の声に似ている気がして、 なんだか切なくなった。 [WorldMessage by Kzp] 「"Zeno"さんが復帰したぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」 Zeno:何しやがんだ Kzp:いいじゃないですか、すごい反響ですよ。 Kzp:「Conservative」への宣戦布告でもあります。 Kzp:それじゃ私、仲間に声かけてきます。 Kzp:「覇権」とるんですよね、まずギルド作らなきゃ。 Kzp:しばらくレベル上げておいてください。 Zeno:わかった。よろしく頼むよ。 Kzp:ではまた、メッセージ送ります。 「覇権」か、懐かしい。 このゲームは、メンテナンス内容が、 力を持ったユーザーの意見によって変化する。 力のあるユーザーの、 ご都合主義的なゲームへと変容していくのだ。 それ故にユーザーは力を求め、徒党を組む。 一人の力は所詮、一人の力に過ぎず、 徒党を組んだ弱者を押し殺せない。 また、強い人間が既に徒党を組んで、 「ギルド」を形成している。 さらにギルド同士が協定を結び、 「連合」化している。 そこで相変わらず「政治」のように、 メンテ内容を統治されているのが現状だ。 「Conservative」 これが最大連合の名前。 数十個の大型ギルドが参加していて、 「議会」を開催している。 特定のユーザーに、 「覇権」を取らせないための連合だ。 ふふふ、「覇権」か。 悪くない、再び狙わせてもらおうじゃないか。 まずはレベルを上げる必要がある。 私のレベルはいくつだったっか・・・。 [ステータス] ポチ - Lv:153レベル(1532位) - 職業:侍 ("ジョブチェンジ可能!") - 順位がとてつもなく、 下がっているのは仕方ないとして、 "ジョブチェンジ可能!" これは見た事がないな。 新しいシステムなのだろうか。 いくら保守的な人間が、 「覇権」を封じているとはいえ、 月に1度メンテがあるのだから、 私が離れた3年間で36回のメンテがあったわけだ。 今のシステムに適応するためには、 少しばかり時を要するかもしれない。 何はともあれ、 ジョブチェンジを試してみることにする。 "ジョブチェンジ候補" ―――――――――――――― 侍(邪神)-[条件:不明 "固定職"] 侍(鬼神)-[条件:不明] エロ侍[条件:囁きのピアス所持] 他の職になる[条件:50000POINT必要] "[固定職]以外は、自由に変更可能" ―――――――――――――― ほう、 侍の派生職といったところか。 「固定職]はリスクが伴うようだ。 (邪神)という名前も怪しく、すぐには決めかねる。 エロ侍・・・。 嫌すぎる。 侍(鬼神) これに転職してみようか。 ポチ [システムメッセージ]Zeno様が侍(鬼神)に転職しました。 [システムメッセージ]「鬼神化」スキルを習得 [システムメッセージ]「鬼斬り」スキルを習得 [システムメッセージ]おすすめ狩場が「鬼ヶ島」に設定されました。 [システムメッセージ] "強制クエスト発生"「鬼ヶ島を制圧せよ」 [システムメッセージ]「鬼ヶ島」へワープします。 (→ひとまず、ダークヒーロー視点に切り替え)