エクストリーム給食

●教室

小学校のある教室。

給食の準備で賑わう。

それを見守る先生。

生徒１ ｢やった！　今日はプリンだ！｣

生徒２ ｢ハンバーグ、一番大きいのにしてくれよ｣

解説 ｢わがまま言うなよ……、ほら｣

生徒２ ｢おお、ありがとな｣

給食を受け取った生徒達が段々と席についていく。

生徒が全員席に着き、先生が手を叩いて注目を集める。

先生 ｢じゃあ、みんな席に着きましたか？｣

生徒達 ｢ハーイ！｣

先生 ｢お？　なんだ、プリンが一つ余ってるな？

……ああ、佐藤くんが休みだからか、

誰か欲しい人いますか？｣

(ここから雰囲気を変えて)

ざわつく教室。

一人が立ち上がり、

田中 ｢それなら俺が頂こうかな？｣

先生 ｢た、田中くん？｣

それを見た生徒達は静かになる。

生徒１ ｢(小声で)チャンピオン田中……！｣

生徒２ ｢(小声で)あんなヤツに勝てる訳無いだろ……｣

先生 ｢チャンピオン？　みんな、一体どうしたの！？｣

盛り上がる生徒達。

先生の言葉は届かず、一人取り残されてる。

生徒１ ｢(小声で)おい、電々さん。

あんたなら勝てるんじゃ？｣

電々 ｢ふっ、あやつはこのわしが万全の状態でも、

万に一つ勝てるか解らん相手……。

それを今の状態で勝てる訳が無かろう……｣

生徒２ ｢電々、何かあったのか？｣

電々 ｢それは‥ヤツと戦ったからだ｣

そう言って電々は山田を指差す。

山田は立ち上がり田中をにらみ付ける。

山田 ｢待て！　それは佐藤のプリン……、

ならば友人であるこの俺が頂く！｣

田中 ｢ふっ、この俺に楯突く気か？｣

山田 ｢佐藤の魂(プリン)を守る為ならば、

いくらでも楯突いてやる！｣

先生 ｢山田くん！？　ちょっと、何やってるの！？｣

騒然する生徒達。

その中の一人がスプーンをマイクの様に持ち立ち上がる。

解説 ｢お〜っと！

無敗の給食チャンピオン田中の不戦勝と思われたプリン争奪戦！

そこに無謀なチャレンジャーが現れた〜！

その名は山田〜！｣

先生 ｢小笠原くんも！？｣

田中 ｢久しぶりのチャレンジャーか……。

くっくっく、せいぜい、楽しませてもらおう！

はぁっ！｣

気合を入れて何かオーラのようなものを出す田中。

生徒達がそれに気圧される。

先生は吹き飛ばされて教室の隅に。

先生 ｢うわぁぁ！？｣

山田 ｢ぐっ！　これが……チャンピオンの力か｣

先生 ｢げほっ、げほっ！

一体なんなの？

何が始まるの！？｣

生徒１ ｢おっと、新参者の先生は下がっていて貰おうか？｣

生徒２ ｢ふふふ、あんたも運が良いぜ。

赴任早々こんな戦いに鉢合わせるなんてな｣

先生 ｢戦い？　たかがプリンで！？｣

中島 ｢山田君！　やめて！

こんな、こんな危険な事！

あなたが傷ついてしまうわ！

そんなの、見たくない……｣

山田 ｢中島……、俺は大丈夫だ。

この勝負、絶対に負けねぇ！｣

机を向かい合わせる二人。

フラフラ立ち上がってくる先生。

解説 ｢じゃあ、ルールの確認だ！

先に給食を食べきった方の勝ち。

勝利の栄冠(プリン)を手にする事ができるって訳だ！｣

先生 ｢それってただの早食いじゃ……｣

解説 ｢ヘイ！　日直！｣

日直 ｢はいはい、皆席について｣

教壇の前に日直の子がやってくる。

息を呑む生徒達。

その中で中島は両手を合わせ祈っている。

中島Ｍ ｢佐藤君、山田君に力を……｣

先生 ｢誰か先生の話を聞いて……｣

日直 ｢では、手を合わせてください。

……頂きます！｣

一斉に食事を始める両者。

山田はご飯を手にし、いっきに掻き込む。

解説 ｢お〜っと！　チャレンジャー山田、

いきなりご飯をかきこんだ〜！

これは早いぞ！｣

山田 ｢このまま一気に差をつけてやる！

あぐ、あぐ……｣

田中 ｢ふ、愚かな……、お前の目にはこれが見えないのかな？｣

山田 ｢なにぃ！？｣

田中の前に置かれている茶碗には、

先程まで入っていたご飯がすでに無かった。

山田 ｢なん……だと！

もうご飯を食べ終わっている！？｣

解説 ｢なんと！　チャンピオン田中、すでにご飯を食し終えていた！

早い！　早すぎる！

これが王者の力というのかぁ〜！｣

田中 ｢見たか！　これが王者の力だ！｣

先生 ｢そんな、ご飯粒だらけでドヤ顔されても……｣

山田 ｢くそ！　まさかこれ程とは……｣

ご飯を食べ終わった山田は茶碗をトレイの上に勢いよく置く。

対する田中はゆっくりとスープを飲んでいた。

解説 ｢山田もご飯を食べ終えて、

先行する田中を追いかける！

追われる田中は……、

ああー！

スープをゆっくりと飲んでいる！

これが王者の余裕か？｣

田中 ｢ふふ、このまま大差で終わらせるのはつまらないからな。

さぁ、愚か者よ、

早く俺に追いついて見せろ｣

山田 ｢舐めやがって……。

ならば、その余裕を無くしてやる！

必殺！　餓王大瀑布(がおうだいばくふ)！｣

スープを滝の様に口に落とし飲み干す山田。

それを見て驚愕する生徒達。

電々が立ち上がり、

電々 ｢あれは餓王大瀑布！？

まさか伝説の飲食術『餓王神拳』｣

先生 ｢それは！？｣

生徒２ ｢知っているのか！

電々！｣

電々 ｢昔、大飢饉の時代、

貴重な食料を他人に奪われる前に、

すばやく食べる為に編み出された技……。

この飽食の時代、すでに廃れたと思ったが、

まさかこんな所で見る事になるとはな……｣

生徒２ ｢そんなすごい技が存在していたのか｣

先生 ｢すごい……のか？｣

そんな生徒同士の会話をよそに、

山田と田中は給食を食べ続けている。

その両者の戦い？を見守りながら解説は、

解説 ｢お〜っと！　両者ほぼ同時にスープを飲み終え、

サラダも同時に食べ終わった！

すごいぞ！　チャレンジャー山田！

次のハンバーグで追い越せるか！？｣

山田 ｢どうだ！　この日の為に取得した『餓王神拳』、

これで貴様を倒してやる！｣

田中 ｢ふふふ、驚いたよ

ここまで俺に食いつく奴が居るとはな……｣

先生 ｢先生も驚きだよ‥、

赴任初日でこんな事態になるなんて……｣

半泣きの先生。

田中 ｢いいだろう、俺も本気を見せてやろう！｣

田中は物々しく給食袋から、

布に包まれたディナーナイフを取り出す。

田中 ｢受けよ！

エクスカリバー！｣

取り出したナイフでハンバーグを一閃、

次の瞬間ハンバーグが一口大に切り分けられた。

山田 ｢まさか！

一口サイズに切り分けただと！？｣

解説 ｢出たぁ！　伝家の宝刀エクスカリバー！

数々の大きいおかずを切り分けたその刃は、

今も尚、その煌めきを失ってはいなかったー！｣

先生 ｢いや、普通の食器のナイフでしょ？

というか、学校にそんなもの持って来ちゃダメでしょ……｣

山田 ｢そうか、一口大に切る事で、

他校に『大きすぎじゃね？』

と言われるうちの学校のハンバーグを、

食べやすくしたのか！

くっ！　このままでは……｣

解説 ｢田中の奥義を前に動けなくなる山田！

このまま彼の挑戦は終わってしまうのか〜！｣

電々 ｢そんな、山田！｣

中島 ｢いやぁ！　山田君！｣

先生 ｢誰か俺の話を聞いてー！｣

動けなくなった山田に声をかける電々や中島。

(先生の声はひときわ小さく)

●山田の心の中

追い詰められて心の中に入る山田。

山田 ｢もうここまでなのか……。

すまない佐藤、

お前の魂(プリン)を守れなかった……｣

佐藤 ｢山田！｣

諦めかけた山田に声をかける佐藤。

山田 ｢佐藤、すまない、俺は……｣

佐藤 ｢バカ野郎！

そんな事で諦めるな！｣

山田 ｢だけど……田中は、チャンピオンは強い。

俺の力じゃとても……｣

佐藤 ｢ばっかやろー！｣

そう言って山田を殴る佐藤。

山田 ｢ぐっ！？　さ、佐藤‥｣

佐藤 ｢修行の日々を思い出せ！

１キロカレーを食べた事を、

大盛り餃子３０分で食べた事を、

うまい棒(めんたい味)を千本食べた事を、

川で釣り上げた魚を賭けて熊と戦った事を！

あんなに必死になって、辛い思いをして、

『餓王神拳』を習得したんだろう？

ならば、最後まで戦い抜けよ！｣

山田 ｢佐藤……｣

佐藤 ｢大丈夫だ。

お前の習得した『餓王神拳』は無敵だ。

きっと、勝つ事ができるさ｣

だんだん消えていく佐藤。

山田は光に包まれていく。

●教室

現実に戻る山田。

山田 ｢佐藤よ、俺は最後まで抗って見せるぜ！｣

中島 ｢山田君！｣

そう言って、ハンバーグに食いつく山田。

解説 ｢チャレンジャー山田、

必死にチャンピオンを追いかける！｣

田中はハンバーグを食べ終えて牛乳に手をつける。

田中 ｢ふははは、もう遅い！

後はこの牛乳を飲めば俺の勝ちだ！｣

牛乳を飲み始める田中。

山田もハンバーグを食べ終える。

山田 ｢いや！　まだだ！

俺には佐藤と一緒に取得した、

この『餓王神拳』がある！｣

牛乳瓶を手に持ち、

中身を滝の様に口の中に落とす。

解説 ｢あれは！　スープのときに使っていた技！？｣

田中 ｢愚か者め！

その技ではこの差は埋められんぞ！｣

山田 ｢いいや、勝って見せる！

俺には‥佐藤がついているんだ！｣

田中 ｢なっ！

これは……さっきの技よりも早いだと！？｣

解説 ｢すごい！　すごいぞ、チャレンジャー！

チャンピオンにぐんぐん迫っている！｣

飲み干した山田が、

牛乳瓶をお盆の上に勢いよく置く。

山田 ｢俺の‥勝ちだ！｣

解説 ｢飲み干したー！

勝者、チャレンジャー山田〜！｣

中島 ｢ああ！　山田君！｣

拳を高々に上げる山田。

その山田に駆け寄る中島。

山田 ｢すまない、中島。

心配させちまって……｣

中島 ｢ううん、あなたが無事ならそれでいい……｣

田中 ｢ぐふっ｣

田中が唐突に吐血し(た様に)膝を付く。

山田 ｢田中！｣

田中の側に駆け寄る山田。

田中 ｢……ふっ、山田よ。

俺に勝ったと言って油断するなよ｣

山田 ｢どういうことだ？｣

田中 ｢２組の王者 武田は、

お前の『餓王神拳』と対を成す秘拳、

『暗黒飢神拳(あんこくきしんけん)』の使い手だ｣

山田 ｢まさか！？｣

田中 ｢……山田、３組の事‥頼むぞ｣

そう言って、倒れる田中。

山田 ｢田中、お前の意思は俺が引き継ぐ！｣

中島 ｢山田くん……｣

そう言って、拳を握る山田。

それを心配そうに見つめる中島。

一部始終を呆気に盗られて見ていた先生。

先生 ｢何だこれ？｣

エクストリーム給食　終わり

●おまけ

・次回予告っぽいもの

解説 ｢平和な給食時間を送る３組の教室。

そこに２組の魔の手が襲う。

２組の王者 武田の『暗黒飢神拳』とは？

続く佐藤の欠席の理由とは？

次回エクストリーム給食！

『忍び寄る暗黒飢神拳！　蘇る聖剣の漢！』｣