---------------------------------------- 春告鳥(はるつげどり) 衣笠の古寺の侘助椿(わびすけ)の たおやかに散りぬるも 陽に映えて そのひとの前髪 僅(わず)かにかすめながら 水面へと身を投げる 鏡のまどろみのくだかれて 錦の帯の魚のふためいて 同心円に拡がる紅のまわりで さんざめくわたしの心 春の夢 朧気(おぼろげ)に咲き 春の夢 密やかに逝く 古都の庭先 野辺の送り ふりむけばただ閑かさ 化野(あだしの)の古宮(ふるみや)の嵯峨竹の ふりしきる葉洩れ陽にきらめいて そのひとのこぼした言葉にならない言葉が 音も無く谺(こだま)する 足元に蟠(わだかま)る薄氷(うすらひ)に 靄(もや)めいた白い風立ちこめて 春告鳥の問いかける別離(わかれ)に たじろぐわたしの心 春の夢 朧気に咲き 春の夢 密やかに逝く 古都の庭先野辺の送り ふりむけばただ閑かさ (さだまさし) ----------------------------------------